夢のある話がしたい

僕はもういい年なんだけど、どうにも諦めきれない事だってある。


僕は中学生の頃、一度本気で声優になりたいと思った事があった。その憧れは並のものではなかったから、プロダクションに書類を送ってみたりした。「とりあえず面接にきて」みたいな話になり、年齢が年齢だから親に相談した。


母親は反対した。親の立場としてはそれは仕方ない事だったんだろうと思う。中卒で、或いは高卒でどれ位の収入が得られるか解らない道を歩ませるよりは、と思ったのだろう。
結局僕は普通に高校に進学して、紆余曲折ありながら大学も卒業した。大学院は途中で辞める事になり、今はフリーターという身分になっている。


過ぎた事だが、それでは今、自分はもう声優になりたいなどと思わないのかと言われると、それが違うので困ってしまう。
こんなご時世だから、それですべて生計を立てようなんて考えてはいない。ただ、死ぬまでに一度でいいから、声を生業にした仕事をしてみたいなあと考えている。


本当は年を取っていけば、もっと視野が広がっていろんなものに興味が出て、全く違う職を目指すんだと思っていた。けれど、僕がしたい事と言えば、勉学で身につけた事とはおよそかけ離れた分野の事ばかり。半田ごて握って工作をしたり、ナレーションの仕事をしたり。そんな事が、僕がとてもやりたい事だ。


よく「本当にやりたい仕事をしている人なんて一握り」という風な事を聞く。それは事実なんだろうけど、実際どうなんだろう。
家族が出来て、守るべきものを守る為に収入が必要になる。だから好きな事ばかりしていられない。これも「当たり前の事」とみなされていて、特別疑問に思う人も少ないのかもしれない。


そういう生き方があって当然だし、そういう生き方の中にこそ幸せを見出せる人だっているのだろうから、生き方そのものを否定する訳じゃない。ただ、大勢の人がそうやっているからといって、本当に世界中のすべての人がそう出来る訳ではないという事だって、理解しておいて欲しいのだ。


甘えているのかもしれない。それでも僕は、どうにもわがままだから、どうせなら好きな事で生きていきたい。


学業は苦ではなかったけど、振り返ってみるとあまり有意義ではなかったのかな、と今思う。人並みに出来るというだけで、そこに対して畏敬の念を、僕は恐らく心の底からは抱けていなかったと思うし、疑問に思う事も未だにある。


じゃあこれからどうしたいのか。それをする為に何をしていけばいいのか。一度きりの人生、やらなければきっと後悔するんだろう。