思う事

心を許せる人って、そんなに何人もいるものじゃないと、最近になって思うようになってきた。私は19歳だ。


自分では色々考えて生きてきて、進路選択して大学に来たと思っていたけど、どうもそうではなかったみたい。ここには魅力がない。私を興奮させるものがない。熱がないのだ。


「そんなの、誰だってそうだよ」


私の数少ない友人は言う。友人は、今は美容師見習いとして、毎日手の色が変わるまでシャンプーをしたり、閉店後カラーを入れる練習をしている。


「でもあんたは楽しそうじゃん。自分の決めた道を行ってさ。我が道を進む!ってやつ? 中学の時みんな高校行ったのに、専門行ったのあんただけだったもん」
結局あんた一人が大人だったって事でしょ、という言葉は飲み込んだ。
「あのねぇ、本当にそう思ってそんなこと言ってんの?!」
友人は電話口で声を荒げた。
「死ぬ程好きな事が、辛くない訳ないじゃん」
あ。


そうだ、本当は知ってたんだ。
好きな事をするのは、楽しいけど、とっても辛い事なんだ。だから自分の思ったように生きていくのは、楽しい事ばかりじゃなくて、とても苦しい事なんだ。
「大変だけど、それでも好きだから、諦められないから、私は続けてるんだよ」
あなたはどうなの? と言われているようで、胸が苦しくなった。


「私は、昔はおうたを唄うのが好きだったなあ」
それは宙に放った独り言、くるりと自分の頭上を周回して、また自分の中へ戻ってくる。
「でもいつからか、それも自分の将来には必要ない事だって、決めつけて、勉強がどんどん忙しくなって」
気が付いたら、
「私、何にもなかったんだ・・・」


持っているものがない。誇れるものが何もない。だから、生きる糧が、ない。
そんな私は、かといって現状から逃げ出す勇気もなく、ただ決められた日に大学に行き、自分の当面のノルマを消化し、『とりあえず』今をしのいでいる。


「優しくされると困るのは、誰だって同じだよ」
いつか、すごく尊敬していた人にそんな事を言われた事があった。高校の時だったっけな。
「どんな顔していいかわかんなくなるんだもん、慣れていないとさ。みんな、大なり小なり、同じような悩みを抱えてるんだよ。あの人と関わっていたい、この人と関わっていたい、離れたくない。けど、本当は一つにはなれない事を私たちは知ってるんだ」
それでも関わろうとするのは。


「それが、もしかしたら人間が生きている唯一の、もしかしたらみせかけの希望かもしれない。『もしかしたら一つになれるかもしれない』っていう、ある種の幻想。それが、あらゆる事を支えてきたんだよ、きっと」


そして、一方で壊してきた。同族意識から起こる他種の排除、それは大規模になれば戦争となり、私たちの祖先は戦いに行ったり、時には自ら命を絶つものもいた。
「心の優しい人は、動物として持っている破壊衝動よりも、人間が持っている理性が上回るんだ。『他人を傷つけたくない、そんな事はまっぴらごめんだ』って。そうして、どういうプロセスを経てかは解らないけど、自分を抹殺してしまう」


それはきっと、周囲に流されて、自分も狂気に毒されて、人を殺してもなんとも思えなくなってしまう前の、人間の最大の抵抗なのかもしれない。そう考えると、私は自殺する人を頭ごなしに否定する事は出来なくなってしまった。


私は今日も生きている。なんとなく、生きている。私はまだ、私の事をよく解っていない。だから、私が、私の事をよく解るまでは、しがみついて、歯を食いしばってでも生き続けてやろうと思う。
「それだけ言えたら上出来じゃん」
そう友人に言われて、私はなんだか安心したのだった。