久しぶりにシリーズ物を書いてみようと思う第五回

何があなたとの距離を作る事になったのかずっと考えていた。
私には覚悟もあった。意志も。ただ、何かが足りなかった。
待って。もう少し、歩くスピードを落として・・・。


久しぶりに見た夢は、随分と懐かしく、後味の悪いものだった。
梅雨明けの、まだ湿気混じりの空気の中で横になっていたから、汗をずいぶんとかいていた。脱水症状にならないよう水分を取った。


私は、変わったのだろうか。変わったとしたら、何が、どのように、どれ位?


「はぁ・・・」
デスクトップの前に座っても仕事ははかどらず、ただため息だけが、度々こぼれ落ちた。解っている。今朝の夢を、ひきずっている。
甘美な、愛のある生活を送りたいと思っていた。その為なら自分の野心だって、捨てたって構わないと、本当にその時はそう思えた。でも今の私は、ただ自分の本能の赴くがままに、好き放題に生きている。


他人に変に思われる事は気にならなかった。ただ嫌われる事はイヤだった。
言葉にしなければ解らない事があるのだと、この年になって改めて気付かされる。


「イヤなものはイヤなんです、私、この仕事は受けたくありません」
受話器越しに私は声を荒げる。担当の方とのやり合い、別に珍しい事じゃない。
自分の仕事にプライドがあった。こだわりも。だからやりたくない仕事を、身銭稼ぎの為にするような事は、なるべくは避けるようにしていた。
「そりゃあ先生は、最近でこそ少し仕事の数も増えるようになりましたけどね・・・」
担当が言葉を濁す。
「こう、なんというか、これからに繋げていく為にも、こういう仕事もやっておいた方が良いと思うんですよ、先生」
私は、こんな世界に時々絶望する。


これが社会。競争社会、資本主義国家日本。生きていく為には、自分の顔に自分で泥を塗る様な真似だって、平気でしなきゃならない。誰だってきっとそんな事、本当はしたくない。


あれから私は、歩幅を少しずつ広げて、自分なりに、懸命に走ってきた。でも誰の為に?
私は、私の為に、私の人生を悔いのないものにする為に、なんて、そんなにエゴイスティックなことだろうか。


時間は何かを解決する。でも時間は誰の味方もしてくれない。ただそこに、じっとある。
「当り前の事を繰り返して、いつか、あなたの顔も、声も忘れてしまう。そんな淋しい事ってあるんだろうか」
未来はいつも明るいものじゃない。過去だって。私はどうしたらいい。