久しぶりにシリーズ物を書いてみようと思う第六回「テイク・イット・イージー」

ラジオから懐かしい曲が流れた。イーグルスの「take it easy」。
金欠のためエアコンを切り、扇風機カラカラ回る部屋で執筆活動をしていた私は、思わずラジカセにかじりついてしまった。
あぁ、我が青春。使い古された言葉、「テイク・イット・イージー」。その言葉がこんなにも素敵に響くなんて。


最近のラジオは本当にダメだと私は思っている。というのは、DJがダメなのだ。ネイティブ気取りで、肝心の日本語がアヤしい位の日本人ばかりで、時々通信販売の宣伝みたいなものまでやっている始末。私の青春の文化は一体どこへいってしまったのか。


「お聞き下さいました曲は、eaglesで、take it easy。もう夏ですね」
なにが、と思いながら、CDラックからイーグルスを探す私だった。


それからというもの、仕事をしながら私は、人生は本当に「take it easy」でいいのだろうか、なんてことを一人で考えてしまうのだった。
「easy」には、なにも「簡単」だとかいう意味ばかりではなく、「気楽」なんて意味もあったんだろうと思う。ネイティブでない私には解らないけれど、実はこの言葉、日本人にはあまり馴染まないんじゃないだろうかなんて、思い始めていた。
日本人は? 東洋では、こういう事をどういう風に考えてきたんだっけ?


不意に頭の中で、水戸黄門のテーマソングが流れ出した。「人生楽ありゃ苦もあるさ」、当り前だが、確かにそう。
「禍福はあざなえる縄のごとし」、これは中国だったかな。というか、どうして私はこんな事を考えているんだっけ。


そうそう、仕事仕事。私は仕事の為にmacに向かっているんだった。
また単調な音がなり始める、カタカタカタカタ・・・タイピングの音は実に味気ない。
こんなアイデアはどうだ? 携帯電話の確認音のように、パソコンのキーボードにも確認音を付けるのだ。私はタイプライターの印字する音の再現がいいな。シンセサイザーみたいに特定の音が出るようにしたら、面白いかもしれない。


唐突だが、私の名前は「咲綺」と書いて「さき」と読む。「咲」だけでもいいだろうに、と、よく言われる。
でも、ハハは「ただ咲くだけじゃなくて、綺麗に咲いて欲しい」という思いがあったのだと、命名について生前語ってくれた。それはそれで、なんだか妙に説得力があって、胸にじんときたものだった。


そう、何故名前の話を出したかと言うと、例えばこのキーボードで、ローマ字変換で、「S・A・K・I」と打つと、何か特殊な音階の流れが出来るというわけ。「私はこうなんです」と、もしかしたらモールス信号に代わる暗号になるかもしれない・・・習得に時間がかかりそうだけど。


「・・・ダメだ、仕事今日できない」
私は仕事を後回しにした。未来の私が苦労するが、とても今の私には出来ない仕事だ、気が散っちゃって。
少し不安になる私に、さっきの言葉が返ってくる。テイク・イット・イージー。どうにもならないことなんて、そうそうないものね。
私はmacを閉じて、冷たい麦茶を飲むために冷蔵庫へ向かった。